動画運用で最初にぶつかる「顔出し」の壁
顔出しさえすれば動画は伸びる、という誤解
企業のSNS担当者や経営者の方から相談を受ける際、最も多く寄せられる質問の一つが「やはり、社員や社長が顔出しをしないと動画は伸びないのでしょうか?」というものです。
TikTokやYouTube Shorts、Instagram Reelsといったショート動画市場において、確かにトップインフルエンサーや人気企業の多くは、魅力的な「人」を前面に押し出しています。画面の向こうで人間が語りかけ、踊り、演じる動画は、視聴者の視線を一瞬で奪う力を持っています。そのため、「顔出し=成功の必須条件」であるかのような言説が、まことしやかに語られているのが現状です。
しかし、現場のデータを見ると、必ずしもそうとは言い切れません。顔を出していても全く再生回数が伸びずに撤退する企業アカウントは山のようにありますし、逆に、一切顔を出さないアニメーションやキャラクター運用、手元のみの動画で数十万、数百万人のフォロワーを抱え、莫大な利益を上げている企業も多数存在します。
「顔出しをすれば伸びる」のではありません。「視聴者に価値を届ける手段として、顔出しが適している場合がある」だけです。この因果関係を履き違えたまま、ただなんとなく「流行っているから」「コンサルタントに言われたから」という理由で社員をカメラの前に立たせることは、実は非常にリスクの高いギャンブルをしているのと同じです。
二元論ではなく、企業の「目的」から手段を選ぶ重要性
この問題における最大の落とし穴は、「顔出しあり」か「顔出しなし」か、という二元論で考えてしまうことにあります。どちらが優れているかという議論は、目的が定まっていなければ何の意味も持ちません。
例えば、創業社長のカリスマ性を世に知らしめ、その求心力で採用を行いたいのであれば、社長本人が出る以外の選択肢はないでしょう。一方で、特定の商品ブランドの世界観を構築し、長く愛されるキャラクタービジネスを展開したいのであれば、生身の人間が出ることはかえってノイズになる可能性があります。
運用スタイルは、企業のフェーズ、解決したい課題、そして確保できるリソースによって決定されるべきものです。競合他社が顔を出しているからといって、自社もそうしなければならない理由はどこにもありません。むしろ、他社が顔出しのリスクに足を取られている間に、全く別のアプローチで着実にファンを獲得する戦略も十分に考えられます。
自社のリソースと目的に合った運用スタイルを見つけること
今回は、動画制作とSNS運用の専門家としての視点から、「顔出しあり」と「顔出しなし(特にキャラクター運用)」の双方について、メリット・デメリットを公平かつ徹底的に分析します。
精神論ではなく、実際に運用した場合に起こりうる「3年後の未来」をシミュレーションし、ビジネスとしての損益分岐点やリスク管理の観点まで踏み込んで解説します。
特に、後半で詳しく触れますが、今回ご提示いただいたような「親しみやすいキャラクター」を活用した運用は、多くの日本企業にとって、極めて合理的かつ効果的な「第三の選択肢」となり得ます。
顔出しへの不安で動画活用への一歩が踏み出せずにいるのであれば、この記事を読み終える頃には、自社にとって最適な運用の形が明確に見えているはずです。それでは、まずは企業が抱える「顔出しへの葛藤」の正体から紐解いていきましょう。
なぜ多くの企業が「顔出し」に踏み切れないのか
動画マーケティングが定石となりつつある現在でも、多くの企業が「顔出し」という最後の一線を超えられずにいます。成功事例の多くが「人」を売りにしている現実を理解しながらも、いざ自社で実践しようとすると、そこには単なる「恥ずかしさ」だけではない、企業ならではの重い判断が立ちはだかるからです。
なぜここまで現場は躊躇するのか?
まずはその背景にある、決して無視できない切実な懸念と構造的な課題を紐解きます。
経営者が懸念するデジタルタトゥーと炎上リスク
動画マーケティングの重要性を理解しつつも、経営者がGOサインを出せない最大の理由は、インターネット上に一度出た情報は完全には消せないという「デジタルタトゥー」への根源的な恐怖です。
テキストや静止画の時代とは異なり、動画は情報量が圧倒的に多く、表情、声のトーン、しぐさなど、言語化できない情報まで伝わります。これは信頼獲得において強力な武器になる一方で、一度ネガティブな印象を持たれた場合、その払拭が極めて難しいという側面を持っています。
もし、出演した社員や社長自身が、動画内での些細な発言を切り取られて炎上した場合どうなるか。あるいは、過去のプライベートな出来事が掘り返された場合どうなるか。企業ロゴを背負って出演している以上、個人の炎上は直ちに企業のブランド毀損に直結します。
特に、歴史ある企業やBtoB企業ほど、「既存取引先からの信用」を第一に考えます。「TikTokでふざけた動画を出して炎上し、長年の取引先から契約を切られたらどうするんだ」という懸念は、決して杞憂ではありません。このリスクを定量化できないため、多くの企業は「やらない」という安全策をとってしまうのです。
現場スタッフが抱える心理的負担とプライバシーの問題
経営陣が乗り気であったとしても、現場のスタッフが拒否反応を示すケースも多々あります。これはいわゆる「身バレ」や「プライバシー」の問題です。
現代のSNSユーザーによる特定能力は凄まじいものがあります。動画の背景に映り込んだ建物や、窓からの景色、あるいは瞳に映った反射からでさえ、勤務地や居住地を特定されるリスクがあります。通常業務の一環としてSNS運用を任された社員にとって、自身の安全や私生活が脅かされるかもしれないという恐怖は、計り知れないストレスとなります。
また、「私はYouTuberになるためにこの会社に入ったわけではない」というキャリア観の相違も大きな障壁です。営業や事務、企画職として入社したはずが、業務命令でカメラの前で踊ったり、演技をさせられたりすることへの心理的抵抗は非常に強いものがあります。
無理に出演を強要すれば、それがパワハラと受け取られかねませんし、モチベーションの低下や最悪の場合は退職につながることもあります。出演者本人の同意と覚悟がなければ、継続的な運用は不可能です。しかし、一般社員にそこまでの覚悟を求めるのは、そもそも雇用契約の範囲を超えている場合が多いのが実情です。
それでも顔出しが推奨される市場背景を整理する
これだけのリスクがありながら、なぜ世の中のWebマーケターやコンサルタントは「顔出し」を強く推奨するのでしょうか。それには、現在のSNSアルゴリズムと視聴者心理が大きく関係しています。
TikTokやInstagram、YouTubeなどのプラットフォームは、滞在時間を延ばすコンテンツを優遇します。人間は本能的に「人間の顔」に注目する性質を持っており、画面に表情豊かな人物が映っているだけで、視聴維持率は高まる傾向にあります。
また、情報の信頼性を判断する際、「誰が言っているか」は非常に重要なファクターです。匿名のテキストで「この商品は素晴らしい」と言われるよりも、実在する人物が実物を手に持ち、熱量を持って語りかける方が説得力は増します。
これを「ザイオンス効果(単純接触効果)」と呼びますが、顔を見せて何度も接触することで、好感度や信頼度が積み上がりやすいのです。
つまり、「手っ取り早く数字(再生数やフォロワー数)を作る」という一点においては、顔出し運用が理にかなっているのは事実です。
しかし、ここで立ち止まって考える必要があります。
「手っ取り早く数字を作ること」と「企業の持続的な成長に貢献すること」はイコールでしょうか?
短期的なバズのために、抱えきれないリスクを負う必要はありません。市場の「推奨」はあくまで一般論であり、あなたの会社にとっての正解とは限りません。
「顔出しあり」運用のメリットと抱えるリスク
ここでは、「顔出しあり(ヒューマン運用)」を選択した場合に得られるメリットと、その裏に潜むリスクについて、さらに深掘りして解説します。
多くの企業がメリットばかりに目を向けがちですが、長期的な運用を考える上では、むしろリスクの側面を正しく理解しておくことが重要です。
人間味による信頼構築のスピードとファン化の速さ
顔出し運用の最大のメリットは、圧倒的な「信頼構築スピード」と「ファン化」の力です。
BtoC、BtoBを問わず、最終的にビジネスは「人対人」の信頼関係で成り立っています。「この会社の社長はこんなに熱い想いを持っているのか」「この担当者は本当に商品が好きなんだな」という人間味が伝わると、視聴者はその企業に対して親近感を抱きます。
例えば、リフォーム会社のアカウントで、強面の職人が実は非常に繊細な手仕事をし、照れくさそうに顧客にお礼を言う動画があったとします。これだけで、「怖い」というイメージが「実直で信頼できる」というイメージに一変します。
また、コメント欄での交流においても、顔が見えている相手からの返信は、受け取る側にとって「自分に向けて言葉をくれた」という実感が湧きやすく、熱狂的なファンを生み出しやすい土壌があります。
この「熱量」こそが、SNS経由での購買や採用エントリーを後押しする強力なエンジンとなります。
アルゴリズム上の優遇と初期段階での反応の良さ
先ほども少し触れましたが、各SNSのアルゴリズムは、人間味のあるコンテンツを好む傾向があります。
特にTikTokにおいては、動画の冒頭数秒で「何が映っているか」をAIが判別し、人物が大きく映っている動画は、視聴者のスクロールを止める力が強いと判断されやすいのです。
初期段階のアカウントにとって、まずは「見てもらうこと」が最大のハードルです。顔出し運用は、表情や声の抑揚といったノンバーバル(非言語)コミュニケーションをフル活用できるため、情報量がリッチになり、飽きさせない工夫がしやすいという利点があります。
結果として、アカウント開設から初速をつけるまでの期間が、顔出しなしのアカウントと比較して短くなる傾向があります。早期に成功体験を得やすいことは、運用チームのモチベーション維持という観点でもメリットと言えるでしょう。
担当者の退職によってアカウントが停止する属人化リスク
ここからは、決して無視できない「リスク」の部分について解説します。企業が顔出し運用をする上で最大のリスク、それは「担当者の退職」です。
特定社員をメインキャストとして運用し、その社員のキャラクター人気でフォロワーを数万、数十万人集めたとします。しかし、その社員が何らかの事情で退職することになったらどうなるでしょうか。
視聴者は「その会社」のファンである以前に、「その人」のファンになっています。メインキャストがいなくなった途端、再生回数が10分の1以下に激減したり、コメント欄が「○○さんがいないなら見ない」「前の人が良かった」というネガティブな反応で埋め尽くされたりするケースは、枚挙に暇がいありません。
最悪の場合、アカウントそのものが「死に体」となり、それまで投じてきた制作費や人件費といった投資が、一夜にして無価値になる可能性があります。これは、企業経営において非常に危険な「資産の属人化」です。一人の社員に依存したマーケティングチャネルは、いつ崩壊してもおかしくない砂上の楼閣なのです。
個人の行動が企業ブランドを揺るがすコンプライアンス問題
次に恐ろしいのが、出演者のプライベートにおける行動リスクです。
企業の顔として認知された社員が、プライベートで不祥事を起こした場合、企業は逃げることができません。例えば、飲酒運転、不適切な異性交遊、SNSでの個人的な暴言などが発覚すれば、「あそこの会社の動画に出ていた人だ」「こんな人を雇っている会社は信用できない」と、批判の矛先は企業に向かいます。
本人がどれだけ気をつけていても、過去の過ちが掘り返されることもあります。また、本人は悪気がなくても、動画内の発言が差別的だと捉えられたり、政治的な発言をしてしまったりすることで、予期せぬ炎上を招くこともあります。
人間である以上、完璧ではありません。感情の起伏もありますし、間違いも犯します。顔出し運用を選択するということは、その不確実な「人間という要素」を、企業ブランドの直下に置くという経営判断を意味します。このリスクコントロールにかかるコストは、想像以上に高いものとなります。
インフルエンサー化した社員の独立問題と契約の難しさ
さらに、昨今増えているのが「社員インフルエンサーの独立問題」です。
企業の支援を受けて動画に出演し、知名度を上げた社員が、「自分一人でもやっていけるのではないか?」と考え始めるのは自然な流れです。個人のSNSアカウントも伸び始め、企業からの給与よりも高いインフルエンサー収入を得られるようになれば、会社に留まる理由は薄れていきます。
退職後に競合他社へ転職したり、あるいは自ら競合となる事業を立ち上げたりした場合、企業は「自社の予算でライバルを育ててしまった」ことになります。
これを防ぐために、入社時やプロジェクト開始時に厳格な誓約書を結ぶ企業も増えていますが、「退職後○年間は同業種の動画に出てはいけない」といった職業選択の自由を制限するような条項は、法的に無効とされるケースもあり、完全な縛り付けは困難です。
「人気が出れば出るほど、離脱のリスクが高まる」というジレンマ。これが、顔出し運用が抱える構造的な欠陥とも言えるでしょう。
「顔出しなし」運用が持つ長期的な資産価値
「顔出し運用」を見ましたが、ここでは対極にある「顔出しなし」運用の真価について解説します。多くの人が「顔出しなし=妥協案」と考えていますが、それは大きな間違いです。ビジネス視点で見たとき、ここには「資産の安全性」という極めて大きなメリットが存在します。
企業自体にブランドへの信頼が蓄積される仕組み
顔出しなし運用の最大の特徴は、信頼の蓄積先が「個人」ではなく「企業(またはアカウントそのもの)」になるという点です。
例えば、料理動画メディアの『Kurashiru(クラシル)』や『DELISH KITCHEN』を思い浮かべてみてください。そこに特定の料理研究家の顔は見えません。手元と料理だけが映し出されています。しかし、視聴者は「クラシルのレシピなら美味しいはずだ」と信頼を寄せています。
これがもし、特定の有名シェフの個人的なチャンネルであれば、信頼はそのシェフ個人に帰属します。しかし、顔を出さないことで、視聴者は無意識のうちにコンテンツの背後にある「ブランド」を信頼するようになります。
このように、特定の個人に依存せず、アカウントそのものが信頼の器となる状態こそが、真の意味での「企業資産」です。担当者が誰であろうと、一定のクオリティさえ保てれば、そのブランド価値は毀損されません。長期的に安定した経営資源としてSNSを育てたい場合、この構造は非常に強固です。
担当者が変わっても運用を継続できる再現性と安定性
組織として運用する以上、人事異動や退職は避けられません。「顔出しなし」運用であれば、この組織変更のリスクをほぼゼロにできます。
動画のナレーション、撮影、編集といったタスクは、マニュアル化することで引き継ぎが可能です。今の担当者が退職しても、次の担当者が同じフォーマットで作れば、視聴者は担当者が変わったことにすら気づかないかもしれません。
また、外部の制作会社やフリーランスに委託しやすいというメリットもあります。顔出しが必要な場合、演者のスケジュール調整や体調管理まで含めた複雑なディレクションが必要ですが、顔出しなしであれば、制作フローを完全にシステム化し、安定的にコンテンツを量産する体制を整えることができます。
「誰が作っても同じ結果が出る」という再現性の高さは、ビジネスにおいてコスト削減とリスクヘッジの両面で大きな武器となります。
認知獲得までに時間が必要という現実的な課題
もちろん、良いことばかりではありません。「顔出しなし」運用の最大のデメリットは、認知獲得までの「助走期間」が長いことです。
人間は、人間に対して最も早く反応します。顔が見えない動画は、どうしても初期段階でのインプレッション(表示回数)やエンゲージメント(反応率)が低くなりがちです。「誰だかわからない」アカウントが発信する情報は、よほど内容が有益か、エンターテイメントとして完成されていなければ、指を止めてもらえません。
顔出しアカウントが3ヶ月で達成するフォロワー数に到達するのに、顔出しなしアカウントでは6ヶ月、あるいは1年かかることも珍しくありません。この「耐える期間」を経営陣や運用チームが許容できるかどうかが、成功の分かれ目となります。
しかし、一度軌道に乗れば、そこからの崩れにくさは前述の通りです。ウサギとカメの寓話ではありませんが、瞬発力の「顔出し」に対し、持続力の「顔出しなし」と言えるでしょう。
感情移入のハードルを下げるための工夫と演出
顔が見えない分、視聴者が感情移入しにくいという課題もあります。これを克服するためには、「顔以外」の要素で人間味を演出する高度なテクニックが求められます。
例えば、ナレーションの声色に感情を乗せる、テロップの言葉遣いを親しみやすいものにする、あるいは動画の中に「撮影者のちょっとしたドジ」や「本音のつぶやき」を紛れ込ませるといった手法です。
また、最近では「手元のみ」の動画であっても、その手の動きや仕草から人柄を感じさせるクリエイターも増えています。完全に無機質な情報発信マシーンになるのではなく、「姿は見えないけれど、確かにそこに温度のある人間がいる」という気配(けはい)を感じさせることが、顔出しなし運用でファンを作るコツです。
顔が見えなくても「熱量」や「想い」を伝える方法
「顔を出さないと想いが伝わらない」というのも思い込みに過ぎません。テキストだけの小説で人が涙するように、、構成と演出次第で熱量は十分に伝わります。
重要なのは「Why(なぜやるのか)」と「Story(物語)」です。なぜこの商品を作ったのか、どんな苦労があったのか、顧客にどうなってほしいのか。こうした背景にあるストーリーを丁寧に言語化し、映像に乗せることで、顔出し以上の感動を生むことは可能です。
むしろ、視覚情報としての「顔」がない分、視聴者は言葉やストーリーそのものに集中してくれるという側面もあります。見た目の印象に左右されず、純粋にコンテンツの中身で勝負したい企業にとって、これはポジティブな要素ともなり得ます。
第三の選択肢「キャラクター運用」の有効性
ここまで「顔出しあり」と「顔出しなし」を見てきましたが、実はこの両方の「いいとこ取り」ができる第三の選択肢があります。それが「キャラクター運用」です。
これはただのマスコットではなく、企業の代弁者として機能する「バーチャル社員」を雇用するようなものです。なぜ今、多くの企業がこの戦略にシフトしているのか、その本質的なメリットを解説します。
人間よりも好感を持たれやすいキャラクターの心理的効果
マーケティング心理学において、キャラクターは非常に強力なトリガーです。人間には「ベビーフェイス効果」や「擬人化」への親近感という本能があり、丸みを帯びたフォルムや愛らしいイラストに対して、無条件に警戒心を解く傾向があります。
実写の人間が出てくると、視聴者は無意識のうちに「好き・嫌い」「生理的に合う・合わない」という判断を瞬時に行います。「清潔感がない」「目つきが怖い」「話し方が鼻につく」といったネガティブな反応は、人間である以上、完全に避けることは不可能です。
しかし、親しみやすいデザインのキャラクターであれば、そうした生理的な拒絶反応をほぼ回避できます。「かわいい」「癒やされる」というポジティブな感情からスタートできるため、企業発信特有の広告臭や押し売り感を消し去り、メッセージを素直に受け取ってもらいやすくなるのです。
視覚的な一貫性が生むブランド認知の定着
SNSのタイムラインは高速で流れていきます。その中で「あ、またあの会社のアカウントだ」と一瞬で認識してもらうためには、視覚的な一貫性(ビジュアル・アイデンティティ)が必要です。
人間の場合、髪型が変わったり、服装が変わったり、あるいは体調によって顔色が変わったりと、ビジュアルが不安定になりがちです。しかし、キャラクターは常に同じ姿で、同じクオリティで存在し続けます。
この「変わらない安心感」が、刷り込み効果(ザイオンス効果)を最大化します。毎日投稿される動画の中に必ずそのキャラクターが登場することで、視聴者の脳内に「このキャラ=この会社=役立つ情報」という強固なリンクが形成されます。これは、単なる「顔出しなし」の風景動画などでは得られない、キャラクター運用ならではのブランド資産です。
運用のポイントとなる「3つの黄金ポーズ」
キャラクター運用といっても、高額な費用をかけてフルアニメーションを作る必要はありません。実は、以下の「3つの基本ポーズ(差分)」を用意するだけで、YouTuberのような人格を持った運用が十分に可能です。
- 「指差し・解説」のポーズ 解説系動画において必須の素材です。重要なポイントやテロップが出た際に、キャラクターがそこを指し示す画像を配置することで、視聴者の視線を自然に誘導できます。「ここが重要ですよ」と先生が教えるような役割を果たし、情報の伝達効率を劇的に高めます。
- 「笑顔・挨拶」のポーズ 動画の冒頭(オープニング)と最後(エンディング)に最適です。「こんにちは!」という挨拶や、「フォローしてね!」というCTA(行動喚起)のタイミングで笑顔のイラストが表示されることで、視聴者に「歓迎されている」「親切にされた」という読後感を与えます。この「愛想の良さ」が、フォロー率を大きく左右します。
- 「作業中・アクション」のポーズ PCを操作している、汗をかいて走っている、悩んでいる等の「動作」のイラストです。例えば「業務効率化」を語る動画ならPC操作のイラストを、「失敗談」を語るなら悩んでいるイラストを配置します。視聴者と同じ状況(シチュエーション)を視覚化することで、「このキャラも一緒に頑張っているんだ」という強い共感を生み出します。
このように、たった数枚の静止画イラストであっても、表情とポーズの使い分けによって、動画に命を吹き込むことができるのです。
グッズ化や他媒体への展開を含めたビジネスの拡張性
キャラクター運用の魅力は、SNSの中だけにとどまりません。ファンが増えてくれば、そのキャラクター自体が知的財産(IP)となります。
例えば、LINEスタンプとして販売したり、ノベルティグッズ(ステッカーや文房具)を作って顧客に配布したりすることができます。実写の社員の顔写真が入ったTシャツを欲しがる人は稀ですが、愛らしいキャラクターがプリントされたグッズであれば、顧客は喜んで受け取り、愛用してくれるでしょう。
また、Webサイトの案内役、パンフレットの挿絵、社内報のマスコットなど、あらゆる媒体に「出張」させることができます。一度認知されたキャラクターは、企業のあらゆるコミュニケーションコストを下げてくれる「優秀な広報部長」として働き続けるのです。
中の人の気配を少し残すことで生まれる親近感
キャラクター運用を成功させるコツとして、「完全なアニメーション」にするのではなく、「中の人の気配」をスパイスとして加える手法をおすすめします。
例えば、キャラクターの静止画やアニメーションに合わせて、担当者が自分の肉声でアフレコをする(あるいはボイスチェンジャーを使用する)。実写のオフィス映像の中に、合成でキャラクターを登場させる。
「キャラクターというガワ(外見)」と「人間という中身(声や思考)」を組み合わせることで、キャラクターとしての安全性を保ちつつ、人間としての温かみやリアリティを担保できます。このハイブリッド型こそが、現代のSNSにおいて最もリスクが低く、かつエンゲージメントが高い運用スタイルの一つと言えるでしょう。
3年後の未来を予測する運用シミュレーション
ここでは、思考実験として「顔出し社員での運用」と「キャラクター運用」をそれぞれ3年間継続した場合の未来をシミュレーションしてみましょう。現在の数字だけでなく、時間経過とともに変化するリスクとリターン(ROI)を可視化します。
シミュレーションA:顔出し社員が3年後に退職したケース
- 1年目:順風満帆なスタート 広報担当の若手社員(仮名:佐藤さん)を抜擢し、毎日顔出しでトレンド動画を投稿。佐藤さんの明るいキャラクターとルックスが受け、半年でフォロワー3万人を達成。コメント欄には「佐藤さん可愛い」「佐藤さんに会いたい」という声が溢れ、採用エントリー数も昨対比200%に増加。経営陣も大満足の結果となる。
- 2年目:依存度の高まりと予兆 フォロワーは10万人を突破。しかし、動画の企画から撮影、編集まで佐藤さんが中心となって回しているため、業務負担が激増。佐藤さんが風邪で休むと投稿が止まる状態に。また、佐藤さん宛に他社からのヘッドハンティングや、インフルエンサー事務所からの勧誘が届き始める。会社は引き留めのために給与アップを検討せざるを得なくなる。
- 3年目:突然の崩壊 佐藤さんが「自身のキャリアアップ」を理由に退職。会社は急いで後任の社員(鈴木さん)を立てて動画投稿を再開するが、コメント欄は炎上気味に。「佐藤さんじゃないなら見ない」「鈴木さん誰?面白くない」と残酷な反応が続く。 アルゴリズムも「視聴維持率の低下」を検知し、おすすめ表示回数が激減。過去の動画(佐藤さん出演)は会社の資産として残ってはいるが、肖像権の契約上、広告への二次利用ができなくなる。結果、3年かけて築いた10万フォロワーのアカウントは、実質的に「稼働停止」状態となり、ゼロからの再出発を余儀なくされる。
シミュレーションB:キャラクターを3年間育て続けたケース
- 1年目:忍耐の時期 「キャラクター」をメインに据え、お役立ち情報や業界の裏話を発信。初速は遅く、半年経ってもフォロワーは5,000人程度。コメントも少なく、経営陣からは「本当に効果があるのか?」と懐疑的な目で見られる。しかし、担当チームは淡々と「役に立つコンテンツ」を蓄積し続ける。
- 2年目:資産化と安定成長 過去に投稿した「保存版:業界用語解説」などの動画が検索流入でじわじわと再生され続けるロングテール現象が発生。フォロワーは3万人に到達。爆発力はないが、毎日安定して新規フォロワーが増え続ける。 この頃、運用担当者が異動になったが、マニュアルと素材(イラストデータ、テンプレート)があるため、後任者が翌日から全く同じトーンで投稿を継続。視聴者は担当変更に気づかないまま、変わらず「亀さん」への信頼を寄せ続ける。
- 3年目:ビジネスへの貢献と拡張 フォロワーは8万人に。佐藤さんのようなアイドル的人気はないが、フォロワーの質が高く、「このキャラさんが紹介するなら」と商品購入や問い合わせへの転換率(CVR)が高いのが特徴。 さらに、LINEスタンプの販売や、Webサイトへのチャットボット導入(アイコンは亀)など、SNSの枠を超えた展開が加速。採用面接でも「あのキャラクターの動画を見て、親しみやすい会社だと思いました」という志望者が増加。3年目にして、会社にとって「代えの利かない広報担当役員」としての地位を確立する。
瞬発力の「顔出し」、持続力・資産性の「顔出しなし」
この2つのケーススタディから分かることは明確です。 短期的な認知拡大や、特定のスター社員による牽引力を期待するなら「顔出し」が圧倒的に有利です。しかし、そこには常に「人」に依存する不安定さがつきまといます。
一方で、「顔出しなし(キャラクター運用)」は、初期の立ち上げこそ苦労しますが、時が経てば経つほど、そのリスクヘッジ効果と資産価値が輝き始めます。企業経営において「継続性」や「再現性」を重視するのであれば、後者が合理的な選択であることは間違いありません。
採用ブランディングにおいて求職者が見ているポイント
採用活動を目的とする場合、「顔が見えないと社風が伝わらないのでは?」という質問をよく受けます。しかし、求職者が本当に見ているのは「顔」そのものではなく、「情報の透明性」と「空気感」です。
キャラクター運用であっても、オフィスの風景を背景に使ったり、社員同士の笑い声が聞こえたり、あるいは「今日は○○部署でピザパーティーをしました」といった日常を投稿することで、十分に社風は伝わります。むしろ、キラキラした美男美女の社員が出演する動画よりも、飾らない日常や、キャラクターを通した率直な発信の方が、「リアルな会社の姿」として信頼されるケースも増えています。
顔を出さずにファンを作るための具体的メカニズム
「顔出しなし」で成功するための戦術論を具体的に解説します。顔という最強の武器を捨てる代わりに、何を磨けばよいのでしょうか。
共感は「顔」ではなく「ストーリー」から生まれる
人は「誰か」ではなく「何か」に共感します。その「何か」とはストーリーです。 「エリート社員が成功法則を語る」よりも、「入社1年目のポンコツ社員(を模したキャラ)が、失敗しながら成長していく物語」の方が視聴者は応援したくなります。
「Webマーケティングを勉強中のキャラ」や「とある中小企業の広報に任命されたキャラ」といった人格と背景設定(ペルソナ)を与えることで、一気にストーリーが動き出します。
役立つ情報の質が信頼を担保する
顔出しエンタメ系動画は「面白さ」で勝負しますが、顔出しなし系動画は「情報の有用性(GIVE)」で勝負します。 「へぇ、知らなかった!」「これは勉強になる」「明日使ってみよう」と思わせる情報の密度こそが、顔が見えないクリエイターへの信頼の源泉です。
視聴者は「このアカウントをフォローしておけば損はしない」という実利的な理由でフォローボタンを押します。この信頼は、アイドルの人気よりもはるかに強固で、裏切られにくいものです。
コメント欄での交流が生み出すコミュニティ感
顔が見えない分、テキストでのコミュニケーション(コメント返信)が重要性を増します。 コメントに対して、機械的な定型文ではなく、キャラクターの口調(例:「~だカメ!」「~ですね!」)で丁寧に返信することで、視聴者は「ちゃんと中の人が見てくれている」という承認欲求を満たされます。 コメント欄が活発になればなるほど、アルゴリズム的にも「優良なコンテンツ」と評価され、さらに拡散されるという好循環が生まれます。
視覚情報を補うための音声とテロップの役割
視覚的な情報量が少ない分、聴覚(音声)と文字情報(テロップ)で補完する必要があります。 最近のトレンドは、AI音声(「ずんだもん」や「ゆっくりボイス」など)か、あるいは親しみやすい肉声でのナレーションです。テロップも、単に文字を置くだけでなく、動きをつけたり、色を変えたりして、視覚的な退屈さを紛らわせる工夫が求められます。 ご提示の「指差し亀」のイラストなどは、まさにテロップに注目させるための視覚的フックとして機能します。
あなたの会社はどちらを選ぶべきか?目的別診断
最後に、あなたの会社がどちらの道を選ぶべきか、目的別の判断基準を整理します。
短期的な認知拡大や爆発的な拡散を狙う場合
推奨:顔出しあり(インフルエンサー型運用) 新商品の発売に合わせて一気に認知を取りたい、キャンペーンをバズらせたい、といった短期決戦型の場合は、顔出しの持つ情報量と拡散力が不可欠です。リスクを承知で、スター社員や外部タレントを起用し、アクセルを踏み込むべきです。
長期的なブランディングと安定した集客を狙う場合
推奨:顔出しなし(キャラクター運用・ノウハウ型運用) 3年、5年、10年と続く企業の資産を作りたいなら、絶対にこちらです。じっくりと信頼を積み重ね、担当者が変わっても揺るがないブランドを構築してください。
採用活動や社風の伝達を主目的とする場合
推奨:ハイブリッド運用(部分的な顔出し or マスク・首から下のみ) 基本はキャラクターやテロップで進行しつつ、オフィスの様子や社員の働く姿(遠景や後ろ姿、手元)を映すスタイルです。プライバシーを守りつつ、職場のリアルな空気感を伝えることができます。
商品やサービスの機能的価値を伝えたい場合
推奨:顔出しなし(商品メイン・手元のみ) 主役はあくまで「商品」です。出演者が目立ちすぎて商品情報が入ってこないのでは本末転倒です。商品そのものの魅力や、使用感を伝えることに特化しましょう。
予算とリソースから判断する現実的なライン
もし専任の担当がおらず、他の業務と兼務でやるなら、「顔出しなし」一択です。顔出し動画は、身だしなみの準備、照明のセッティング、撮り直しなど、撮影に膨大な時間がかかります。
一方、キャラクター運用や素材を使った動画なら、極端な話、すっぴん・パジャマ姿でも、デスクで編集作業さえできればコンテンツを作れます。継続するためのハードルを極限まで下げておくことは、運用を成功させるための重要な戦略です。
形式にこだわらず、まずは動画運用を始めること
正解探しで足踏みするよりも、テスト運用で見えてくるもの
ここまで議論してきましたが、最も避けるべきは「顔出しする覚悟が決まらないから、動画運用自体をやらない」という選択です。これは、現代のビジネスにおいてあまりにも大きな機会損失です。
正解は一つではありません。まずは「顔出しなし」で小さく始めてみてください。反応を見ながら、もし必要性を感じれば、後から部分的に社員を登場させてもいいのです。逆に、顔出しで始めて辛くなったら、途中からキャラクターを登場させて、「今後はこの子が案内します!」とバトンタッチしても良いかもしれません。SNSはもっと柔軟で、自由な場所です。
キャラクターは、企業のSNS運用における強力な武器になります。 愛らしく、親しみやすく、それでいて「指差し」や「PC作業」といったビジネス文脈でも使いやすい汎用性があります。このキャラクターには、数千万人の潜在顧客とあなたの会社をつなぐ架け橋になるポテンシャルが秘められています。
「顔を出すか出さないか」という悩みは、一度横に置きましょう。 「誰に、何を届けたいか」。その本質的な問いに向き合い最初の一本を作ってみませんか?
動画の向こう側には、あなたの会社の情報を待っている人が必ずいます。 さあ、新しい挑戦の始まりです。





