「うちの店舗でも、そろそろTikTokやInstagramでショート動画を始めた方がいいのでしょうか」
「競合店がInstagramで人気です。うちもやらなくてはならないのではないかと考えています」
日々の業務のなかで、飲食店をはじめとする小規模店舗のオーナー様からこのようなご相談を数多くいただきます。スマートフォンを開けば縦型動画が溢れる今の時代、他店の成功事例や同業者のSNS投稿を目にして、焦りを感じる経営者の方も多いかもしれません。
しかし、Webマーケティングやショート動画運用代行会社として、ご相談いただいた際に、安易に「まずはアカウントを作ってショート動画を毎日投稿しましょう」とおすすめすることはしません。なぜなら、企業や店舗の規模、そして業態によって、SNS運用にかかるコストと実際に得られる売上のバランス(投資対効果)は全く異なるからです。
今回は、株式会社ワンダーフォーサイトが実際の初回相談の現場でオーナー様に必ずお伝えしている「SNS集客のシビアな現実」についてお話しします。プロの視点から市場環境と収益構造を紐解き、限られた予算と人員のなかで大切なお店の利益をどう守り、どう集客につなげていくべきか。事業投資としてSNSを検討するための基準をお伝えします。
店舗オーナー様からよくいただく「SNSを始めたい」というご相談の背景
日々の業務のなかで、飲食店をはじめとする多くの店舗オーナー様や企業の担当者様から、SNS運用やショート動画制作に関するご相談をいただきます。スマートフォンを開けば誰もが縦型のショート動画を目にする時代になり、ご自身の店舗でも何か新しい発信を始めなければならないと感じる方は非常に増えています。
しかし、実際にプロの視点から市場環境や店舗の収益構造を分析していくと、オーナー様が当初イメージされていた「SNS運用の形」が、必ずしもお店の利益につながるとは限らないケースが多々あります。まずは、実際の初回相談の現場でどのような会話が交わされているのか、リアルな実情からお話ししていきます。
「SNSをやらなければならないと思う」という焦燥感の正体
初回のヒアリングでお話を伺うと、多くのご相談者様が第一声で「そろそろ本気でSNSをやらなければならないと思うんです」とおっしゃいます。
なぜそのように感じられるのかを深くお聞きしていくと、同業他社や近隣の競合店がTikTokやInstagramのリール動画を頻繁に更新していたり、SNSきっかけで行列ができているお店の噂を耳にしたりといった背景が見えてきます。
これまでの集客手法であったポータルサイトへの掲載やチラシ配布だけでは新規顧客の獲得が難しくなり、何か新しい集客の柱を作らなければならないという危機感は、経営者として非常に真っ当な感覚です。
ただ、周囲が始めているからという理由だけで、目的や採算の計算を飛ばして「SNSのアカウントを作って動画を毎日投稿すること」自体がゴールになってしまうと、後々大きな赤字を抱える原因になってしまいます。
「TikTokやInstagramを始めるのに何から手をつければいいか」という疑問
次に多いご質問が、「TikTokやInstagramを始めるのに、具体的に何をしたらいいですか?何から始めたらいいですか?」というものです。世の中にはSNS運用のノウハウ記事や解説動画があふれています。「毎日投稿しましょう」「トレンドの音源を使いましょう」「冒頭3秒で惹きつけましょう」といったテクニック論は誰でも簡単に調べることができます。
しかし、店舗を経営されているオーナー様が本当に知りたいのは、そうした表面的な編集テクニックではありません。限られた予算と人員のなかで、具体的にどの媒体を選び、誰がどのように動けば、お店の売上や利益として手元にリターンが返ってくるのかという実務的な道筋のはずです。私たちはショート動画制作やSNS運用代行会社として、単なるツールの使い方ではなく、事業投資として成立するかどうかという視点からこの疑問にお答えするようにしています。
初回ヒアリングで私たちが最初に必ずお伺いする「運用の目的」
ご相談者様から「何から始めたらいいか」と尋ねられた際、私たちはすぐに「まずはアカウントを開設して、このような動画を撮りましょう」とはお答えしません。必ず最初に、「今回のSNS運用の目的はなんですか?」という質問を投げかけます。
SNSを運用する目的は、企業や店舗のフェーズによってまったく異なります。新商品の認知を広げたいのか、採用活動のために社内の雰囲気を伝えたいのか、既存の常連客との接点を維持したいのか、あるいは純粋に新規の来店客数を増やしたいのかによって、選ぶべきプラットフォームも、作るべき動画の企画も、かけるべき予算の配分もすべて変わってきます。ここが曖昧なまま走り出してしまうと、再生回数は回っているのに売上はまったく上がらないという状況に陥りやすくなります。
「集客のため」というご回答の奥にある経営課題の整理
「SNS運用の目的はなんですか?」とお伺いすると、小規模な店舗やBtoCビジネスのオーナー様の多くは「集客とかですかね」と答えられます。
お店を経営している以上、集客を増やして売上を伸ばしたいと考えるのは当然のことです。
ただし、一口に「集客」と言っても、その中身を細かく分解していく必要があります。平日のアイドルタイムの空席を埋めたいのか、客単価の高いディナータイムの予約を増やしたいのか、あるいは一度来てくれたお客様のリピート率を高めたいのかによって、打つべき施策は異なります。また、現在お店が提供している商品やサービスの価格帯、座席数、回転率、そして商圏内のターゲット層の人口動態なども、集客の成否を左右する重要な要素です。
認知拡大と実際の来店・購買行動の間にある距離感
ここでマーケティングの視点から冷静に考えておくべきなのは、SNSのショート動画が得意としているのはあくまで「認知の獲得」や「興味付け」であり、それがそのまま「実際の来店」に直結するとは限らないという点です。
たとえば、TikTokで美味しそうな料理の動画が10万回再生されたとします。動画を見たユーザーは「美味しそう」「行ってみたい」と感じていいねを押すかもしれませんが、その動画を見た人の大半は、お店から遠く離れた都道府県に住んでいる人たちかもしれません。
実店舗ビジネスにおいては、動画を見てくれた人のうち、実際に足を運べる距離に住んでいて、なおかつ実際にお店を予約して来店してくれる人の割合はごく一部に限られます。この「再生回数」と「実際の来店数」の間にある大きなギャップを計算に入れずに運用を始めてしまうと、期待していたような集客効果を得ることが難しくなります。
【実録】都内で2店舗を展開する飲食店様との初回相談と市場調査
先日、実際に私たちが対応させていただいた初回相談の事例をご紹介します。ご相談に来られたのは、都内で2店舗を展開されている飲食店のオーナー様でした。伝統的でありながら幅広い層に親しまれている専門料理を扱っていらっしゃいます。店舗のさらなる売上拡大を目指して、TikTokやInstagramを活用したショート動画運用の代行を検討されていました。
ショート動画運用による集客をご希望されたオーナー様のケース
そのオーナー様も、最初は「今の時代、やっぱりSNSをやらなければならないと思っていまして、TikTokやInstagramでショート動画を運用して集客につなげたいんです」とお話しされていました。お話を詳しく伺うと、料理の品質や店舗の雰囲気には強い自信があるものの、若い世代や新規の顧客層にまだ十分にお店の存在が知られていないため、動画を使って魅力を発信したいというお考えでした。
一般的なSNS運用代行会社であれば、この時点で「いいですね!飲食店とショート動画は非常に相性が良いので、ぜひ毎月10本〜15本の動画を撮影・編集して投稿していくプランで契約しましょう」と営業トークを進めるかもしれません。しかし、私たちはその場で契約のお話を進めることはしませんでした。
その場で安易に「やりましょう」と提案しない理由
オーナー様から集客が目的であるというお話を伺ったあと、私たちは「業態や店舗の規模によって、ショート動画運用が本当に適しているかどうかは調べてみないとわからないため、一度お時間をいただいて少し調査させてください」とお伝えしました。
わざわざお時間を取ってご相談いただいたにもかかわらず、その場で具体的なプランを提示しないことに驚かれる方もいらっしゃいます。しかし、相手のビジネスの採算性を無視して自社の動画制作サービスを売り込むことは、プロのマーケターとして誠実な姿勢とは言えません。調査の時間をいただくのには、明確な理由があります。
業態や客単価によってSNSの投資対効果がまったく異なる現実
SNS運用の投資対効果(ROI)は、扱う商材の客単価と利益率、そしてリピート性によって大きく左右されます。たとえば、1回の契約で数十万円から数百万円の売上が立つ不動産やリフォーム、美容医療、あるいは全国からオンラインで注文を受けられるEC通販事業であれば、SNS運用に毎月数十万円のコストをかけても、月に数件の成約があれば十分に元を取ることができます。
一方で、客単価が1,000円〜3,000円程度の飲食店の場合、1人のお客様が来店してくださることで得られる粗利は限られています。さらに実店舗には「商圏」と「席数」という物理的な制約が存在します。どれだけ動画がバズって全国的に有名になったとしても、お店の席数が20席しかなければ、1日に受け入れられるお客様の数は上限が決まっています。こうした業態ごとの収益構造の違いを数字で検証しなければ、正しい提案はできません。
競合環境とターゲット層の行動様式を調べる時間の重要性
また、その業態のお客様が普段どのようにお店を探し、何を決め手に来店を決断しているのかという行動様式も調べる必要があります。同じ飲食店であっても、20代向けのトレンドカフェなのか、ビジネスパーソンがランチや会食で使うお店なのか、あるいは家族連れが特別な日に訪れるお店なのかによって、TikTokのアルゴリズムと相性が良いかどうかも変わってきます。
私たちは初回相談の後、該当する飲食ジャンルにおける既存のSNSアカウントの伸び具合や、競合店舗の発信状況、そして何よりご相談者様の店舗の客単価と原価率から逆算した損益分岐点を徹底的にシミュレーションしました。
ショート動画運用を代行会社に依頼した場合のリアルな採算シミュレーション
調査と計算を終えた私たちは、後日あらためてオーナー様とお話しする機会を設けました。そこでお伝えしたのは、「結論から申し上げますと、現在のご店舗数と業態で、制作会社に外注してショート動画の継続運用を行っても、おそらく費用対効果の面で元が取れない可能性が高いです」という率直な見解でした。なぜそのような結論に至ったのか、具体的な数字を交えてご説明します。
プロの制作会社・運用代行会社におけるショート動画運用の最低価格帯
まず、TikTokやInstagramのリールといったショート動画のアカウント運用を、専門の制作会社やマーケティング会社に外注する場合の相場について整理しておきます。企画の立案から台本作成、現地での撮影、動画編集、投稿代行、そして毎月の数値分析レポートの作成までを一貫してプロに依頼する場合、最低でも月額40万円前後の費用がかかるのが一般的です。
もちろん、世の中には「月額5万円〜10万円で運用代行します」と謳う格安の業者やフリーランスも存在します。しかし、そうした低価格帯のサービスでは、店舗側が自分でスマートフォンを使って素材を撮影しなければならなかったり、テンプレートに当てはめただけの簡易的な編集しか行われなかったりと、結果的に誰にも見られない動画が量産されるケースがほとんどです。
アルゴリズムの変化が激しい現在のSNS環境において、しっかりと再生数と反応を獲得できる品質の動画を継続的に作り続けるには、専門のディレクターやカメラマン、エディターの人件費として月額40万円程度はどうしてもかかってきます。
企画・撮影・編集・投稿・分析にかかる実務コストの内訳
なぜショート動画の運用代行にそれだけの費用がかかるのかというと、1本の短い動画の裏側に多くの工程が存在するからです。たった30秒や1分の動画であっても、視聴者がスクロールの手を止めるような構成を考え、撮影機材を店舗に持ち込んで照明や音声を整えながら何時間も撮影を行い、さらにテンポの良いカット割りやテロップ入れ、BGMや効果音の調整といった編集作業を行う必要があります。
これらを月に8本〜16本というペースで継続し、さらに投稿後の視聴維持率や保存率などのデータを分析して翌月の企画に反映させていくとなると、関わるスタッフの工数は相当なものになります。制作会社側としても、クオリティを担保しながら事業として継続するためには、月額40万円前後が適正な最低ラインになってきます。
月額40万円という投資額が店舗経営に与えるインパクト
しかし、発注する側の小規模店舗の視点に立つと、毎月40万円の固定費が新たに乗ってくるというのは非常に大きな負担です。年間で計算すれば480万円の投資になります。これは店舗の家賃もう1軒分、あるいは優秀な正社員を1人雇用できるだけの金額に匹敵します。これだけの金額を投じる以上、経営としては確実にそれ以上の売上と利益を回収できなければ意味がありません。
売上ベースと利益ベースで考える損益分岐点のシビアな現実
では、月額40万円のSNS運用費用を回収するためには、実際にお店でどれくらいの売上を作る必要があるでしょうか。今回ご相談いただいた2店舗展開の飲食店様を例に、具体的な数字で計算してみます。
客単価2,000円のお店で毎月200食を追加提供することの難易度
仮に、そのお店のメイン商品の価格や平均客単価を2,000円と設定します。月額40万円の運用費用を、単純な「売上ベース」で回収しようと考えた場合、40万円÷2,000円=200食という計算になります。つまり、これまでの通常の来店客数にプラスして、純粋にSNS(TikTokやInstagram)の動画を見たことがきっかけで来店した新規のお客様に、毎月200食を追加で提供しなければ、40万円の売上すら作れない計算になります。
2店舗あるとはいえ、1店舗あたり毎月100人、毎日コンスタントに3人〜4人の「SNS経由の完全新規客」を1ヶ月間途切れずに呼び込み続けて、ようやく売上と外注費がトントンになる水準です。しかも、これはあくまで「売上」が40万円増えたというだけの話であり、お店の手元に残る「利益」ではありません。
原価や人件費を差し引いた営業利益ベースで計算した場合の回収ライン
経営者の皆様であればご存知の通り、飲食店の売上には食材の原価や変動費がかかります。仮に食材の原価率が30%〜40%だとすると、2,000円の商品を1食提供して得られる粗利は1,200円〜1,400円程度です。さらにそこからスタッフの人件費や光熱費、決済手数料などの諸経費を差し引いた営業利益ベースで考えれば、1食あたりから捻出できる広告宣伝費の原資は数百円単位まで小さくなります。
もし粗利ベース(1食あたり約1,300円の利益と仮定)で月額40万円の外注費を回収しようとするならば、毎月300食以上を追加で提供しなければなりません。営業利益ベースで完全に黒字化させようとすれば、毎月500食〜600食規模の追加注文をSNS経由だけで生み出し続ける必要があります。
しかも、初月からいきなり動画がバズる保証はどこにもなく、アカウントが育つまでの数ヶ月間は毎月40万円の持ち出しが続くことになります。
2店舗展開の規模感ではショート動画の継続外注で元を取るのが難しい理由
このように冷静に電卓を叩いてみると、1店舗や2店舗といった規模感の飲食店が、毎月40万円のコストをかけてショート動画のオーガニック運用を代行会社に依頼するのは、投資対効果の面で非常に分が悪いことがわかります。
どれだけ動画のクオリティが高くても、2店舗という受け皿の大きさに対して毎月の固定コストが重すぎるため、構造的に元を取るのが難しいと判断せざるを得ません。
ショート動画の継続運用で採算が合う企業と合わない店舗の決定的な違い
ここまでのお話を聞くと、「では、飲食店でショート動画運用を代行会社に依頼するのはすべて無駄なのか?」と思われるかもしれません。しかし、決してすべての飲食店や店舗ビジネスで採算が合わないわけではありません。実際に私たちが支援しているクライアント様のなかでも、ショート動画の継続運用によって大きな利益を生み出しているケースは存在します。採算が合うかどうかの分岐点は、「店舗展開の規模」にあります。
都内10店舗や全国30店舗を展開する企業なら採算が合いやすい構造
たとえば、都内に10店舗を展開している飲食チェーンや、全国に30店舗を展開しているブランドであれば、月額40万円〜50万円をかけてショート動画運用を外注しても、十分に採算が合うことの方が多いです。なぜ小規模店舗では赤字になりやすい施策が、多店舗展開している企業では黒字化するのか、そこにはSNSの拡散構造と店舗網の相性が深く関わっています。
1つの動画の拡散が複数店舗の来店に分散・波及するスケールメリット
TikTokやInstagramのリール動画は、フォロワー以外のユーザーにもおすすめ表示されるアルゴリズムを持っています。そのため、魅力的な動画が1本バズると、特定の地域だけでなく都内全域や全国のユーザーに一気に認知が広がります。
このとき、お店が都内に1店舗や2店舗しかない場合、「動画を見て食べてみたいと思ったけれど、自分の家や職場からは遠いから行けない」という取りこぼしが大量に発生します。しかし、都内の主要駅に10店舗、あるいは全国の主要都市に30店舗を展開していれば、動画を見て興味を持ったユーザーが「自分の最寄り駅の近くにも店舗があるから今度行ってみよう」と実際の来店行動に移る確率が飛躍的に高まります。1つのアカウントで発信した動画の集客効果が、10店舗、30店舗へと同時に波及していくため、全体の売上増加額は一気に大きくなります。
1店舗あたりの負担コストが下がり広告宣伝費として吸収できる仕組み
また、コストの負担構造もまったく異なります。2店舗で月額40万円を負担する場合、1店舗あたりの広告宣伝費負担は月20万円になります。先ほど計算した通り、1店舗で月20万円のコストを回収するのは簡単ではありません。
しかし、もし10店舗を展開している企業であれば、月額40万円の運用費を10店舗で割ると、1店舗あたりの負担額はわずか月額4万円になります。30店舗展開であれば、1店舗あたり月額1万3,000円強です。
1店舗あたり月4万円のコストであれば、客単価2,000円のお店でも月に20食〜30食ほど追加の来店があれば十分に回収できる水準になります。1日あたり1人増えるだけでペイできる計算になるため、事業の投資として極めて健全に機能します。
小規模店舗がオーガニックのショート動画運用で勝つための条件とリスク
一方で、1〜2店舗の小規模なお店が、多店舗展開のチェーンと同じように通常の商品紹介動画を上げていくだけでは、外注費を回収することは困難です。もし小規模店舗がオーガニック(広告費をかけない通常の投稿)のショート動画運用で大きく勝とうとするならば、戦い方を根本から変える必要があります。
強烈な属人性とキャラクターでバズを起こし固定ファンを獲得する道
小規模な店舗がSNSで爆発的な集客に成功している事例を分析すると、その多くは「店主や看板スタッフの強烈なキャラクター(属人性)」を前面に押し出しています。料理の美味しさだけでなく、大将のユニークな人柄、店長とアルバイトの掛け合い、あるいはお店が抱えるドラマチックな物語などにファンがつき、「この店主に会いたいから遠方からでも足を運ぶ」という熱狂的な固定ファンが生まれるパターンです。
もしこのような属人性の高いアカウント運用がハマり、大きなバズが起きて固定ファンが定着すれば、中長期的には1〜2店舗の規模であっても外注費以上の売上を生み出し、元が取れる可能性はゼロではありません。
ハイリスク・ハイリターンな投資になりやすく再現性が低いという実情
しかし、この「属人性によるバズとファン化」を前提とした運用は、経営の視点から見ると極めて希望的観測に基づいたギャンブルに近い側面があります。なぜなら、特定の個人のキャラクターが世間にウケるかどうかは、実際にやってみなければわからない要素が大きく、マーケティング施策としての再現性が低いからです。
毎月40万円という決して安くない資金を投じ続けながら、「いつかバズってファンがつくかもしれないし、1年続けてもまったく伸びないかもしれない」という状態に賭けるのは、小規模店舗にとってあまりにもリスクが高い(ハイリスク・ハイリターン)と言えます。資金力に余裕がある大企業ならまだしも、限られた運転資金でやりくりしている店舗オーナー様に、そのような博打のような施策をおすすめすることは私たちにはできません。
現場のスタッフが疲弊して本業の接客や商品開発がおろそかになる懸念
さらに、属人性の高い動画を作るためには、オーナー様ご自身や現場のスタッフの方がカメラの前に立ち、演技をしたりトークをしたりと、撮影に多くの時間と労力を割く必要があります。最初は意欲的に取り組めても、本業の仕込みや接客で忙しいなか、毎月何十本もの動画撮影に追われるようになると、次第に現場が疲弊していきます。また、看板スタッフとして動画に出演していた従業員が退職してしまった瞬間に、アカウントの運用が立ち行かなくなるというリスクも常に付きまといます。
小規模店舗やBtoCビジネスにとって最も合理的なSNS活用の選択肢
では、1〜2店舗を運営する飲食店や、地域密着型の美容室、サロン、小売店などのBtoCビジネスにおいて、最も無駄がなく確実に集客へとつなげるにはどうすればよいのでしょうか?
私たちが数々の現場データと経験から導き出している結論は、「自社のアカウントで無理にショート動画を毎日運用しようとせず、媒体ごとの役割を明確に分けて予算を配分する」というアプローチです。
自社アカウントでのショート動画量産にこだわらないという判断
「SNSを始める=自分たちのアカウントで毎日TikTokやリール動画を投稿しなければならない」という固定観念を、まずは一度手放してみることが大切です。特にTikTokは、基本的には動画コンテンツを投稿するプラットフォームであり、静止画を並べてお店のカタログのように使う媒体ではありません。そのため、TikTokのアカウントを維持・成長させようとすれば、必然的に動画を継続して作り続けるコスト(時間または外注費)が発生します。
採算が合いにくい小規模店舗の場合、無理に自社でTikTokの継続運用を回そうとするよりも、より管理コストが低く、来店前の確認ツールとして機能しやすい媒体にリソースを集中させる方が賢明です。
Instagramは店舗の魅力や基本情報を伝える画像投稿を中心に整える
具体的な方法としておすすめしているのが、Instagramのアカウントを「お店の公式パンフレット・メニュー表」として位置づけ、綺麗な画像投稿(フィード投稿)を中心に整えておくというやり方です。現在、多くの消費者は気になるお店を見つけた際、Googleマップの口コミと並んでInstagramのアカウントを検索し、「どんな料理が出るのか」「店内の雰囲気はどうか」「営業日やアクセスはどうなっているか」を確認します。
このとき、動画が毎日更新されている必要はありません。それよりも、料理のシズル感が伝わる美しい写真や、店内の清潔感がわかる画像が9枚〜12枚ほど綺麗に並んでおり、プロフィール欄に予約サイトへのリンクや営業時間、住所がわかりやすく整理されていることの方が、来店率(コンバージョン率)を高める上ではるかに重要です。
画像投稿であれば、一度プロのカメラマンに撮影してもらうか、店舗スタッフが日常のなかで少しずつ撮り溜めた写真を使うことで、毎月何十万円もの外注費をかけずに運用を続けることができます。
TikTokやリール動画を自力で毎日更新しなくても集客できる仕組み作り
そして、「新規のお客様にお店の存在を知ってもらう(認知拡大・集客の初動)」という役割については、自社のアカウントでゼロから動画を投稿してフォロワーを増やそうとするのではなく、すでに影響力を持っている外部の力を活用する方が、コストパフォーマンスもスピード感も圧倒的に優れています。
集客の初動は業種に合ったインフルエンサーへの依頼が合理的である理由
自社アカウントの運用代行に毎月40万円を払い続けるよりも、はるかに合理的で確実性が高い集客方法が、その業種や地域に特化したインフルエンサー(クリエイター)にPR投稿を依頼する施策です。
飲食店におけるグルメ系インフルエンサー活用の即効性と確実性
飲食店の場合であれば、都内や特定のエリアの美味しいお店を専門に紹介している「グルメ系インフルエンサー」がTikTokやInstagramに数多く存在します。彼らのアカウントには、すでに「美味しいお店を探している」「今度のお休みに外食する場所を決めたい」という購買意欲の高いフォロワーが数万人〜数十万人単位で集まっています。
自社でフォロワー0人の状態からアカウントを立ち上げ、アルゴリズムに評価されるのを何ヶ月も待つよりも、すでにグルメ好きなファンを抱えているインフルエンサーに実際にお店へ足を運んでもらい、その人ならではの視点でショート動画や画像投稿を作ってもらう方が、投稿された翌日から直接的な来店予約につながる確率が格段に高くなります。
また、費用面でも毎月40万円の固定費を払い続ける必要はなく、単発の依頼や必要なタイミングでのスポット予算で実施できるため、リスクを大幅に抑えることができます。
美容サロンや小売店など他のBtoC領域でも高いパフォーマンスが出る仕組み
この考え方は飲食店に限った話ではありません。美容室やエステサロン、ネイルサロン、アパレルショップ、整体院、あるいは地域密着型のクリニックやレジャー施設など、一般消費者向けのBtoCビジネス全般において同様のことが言えます。
それぞれの業界には、美容系インフルエンサー、ファッション系クリエイター、お出かけスポット紹介アカウントなど、ターゲット層に影響力を持つ発信者が必ず存在します。自社アカウントをゼロから育てる苦労とコストを背負う前に、まずは自社の業種と相性の良いインフルエンサーに依頼し、第三者のリアルな体験談としてショート動画を発信してもらう方が、投下した資金に対する集客のパフォーマンスが良くなるケースが非常に多いです。
すでにファンを抱えている第三者の発信力を借りる経済的なメリット
また、消費者の心理としても、お店側が自分たちで「うちのお店は美味しいですよ!」「サービスが良いですよ!」と宣伝する動画よりも、普段から信頼して見ているグルメ系や美容系のインフルエンサーが「ここ、本当に行ってよかった」と紹介している動画の方が、圧倒的に信頼性が高く、来店への背中を押されやすいという特徴があります。
インフルエンサーが投稿してくれた動画を見てお店の名前を知り、そこから検索して先ほど整えておいた自社のInstagram(画像投稿や店舗情報)にたどり着き、予約ボタンを押すという導線を作ることが、小規模店舗にとって最も無駄のない戦い方です。
ご質問への回答と私たちが提供する解決策
さて、冒頭の都内2店舗を展開する飲食店オーナー様との相談の話に戻ります。私たちが調査結果をもとに、「2店舗の規模で月額40万円をかけてショート動画の継続運用を弊社にご依頼いただいても、おそらく元が取れません。それよりもInstagramは画像投稿などを中心に整え、集客はグルメ系インフルエンサーに依頼するなどの方法が最も合理的です」と包み隠さずお話ししたところ、オーナー様は目を丸くしてこうおっしゃいました。
「……結局、どうすればよいですか?」
動画制作やSNS運用の会社に相談に行ったのに、その会社の担当者から「うちで毎月の運用代行を契約しない方がいいです」と止められたわけですから、オーナー様が拍子抜けしてしまわれるのも無理はありません。私たちは思わず笑いながら、なぜこのようなお話をさせていただいたのか、そして私たちが本当にお役に立てる提案とは何なのかをお伝えしました。
できないこと・採算が合わないことを正直にお伝えする理由
私たちが初回相談の段階でここまでシビアな採算ラインをお話しするのは、クライアント様の事業が継続的に利益を出し、成長していくことが、マーケティング支援会社としての本来の目的だからです。
もし私たちが目先の売上だけを考えて、「月額40万円でショート動画を運用しましょう!きっとバズりますよ!」と調子の良いことを言って半年契約や1年契約を結べば、私たちの会社には数百万の売上が入ります。しかし、半年後に費用対効果が合わずにオーナー様が資金を失い、「SNSなんてやっても意味がなかった」と失望して契約が終了してしまえば、誰も幸せになりません。
プロのマーケターでありクリエイターである以上、お客様のビジネスモデルや店舗規模を見て「このやり方はリスクが高すぎる」「こちらの方法にお金を使った方が確実にリターンが出る」とわかっているのであれば、たとえ自社の高額な継続プランが売れなくなったとしても、正しい事実をお伝えするのが筋だと考えています。
制作会社の売上よりもクライアント様の事業利益を最優先する姿勢
マーケティングの施策は、すべて「投資」です。投じた資金に対して、それ以上の利益が返ってくる見込みがあるからこそ実施する意味があります。都内10店舗、全国30店舗を展開されている企業様であれば、私たちは自信を持って月額40万円以上のショート動画運用代行プランをご提案し、全店舗の売上を押し上げるための動画制作を全力で行います。
しかし、1〜2店舗のオーナー様に対して同じプランを売るのは、サイズが合わない服を無理やり買わせるようなものです。相手の事業規模に合わせて、最も費用対効果が高くなる予算の使い方を一緒に考えることこそが、専門家としての誠意だと考えています。
私たちがご提案する「初期設定+初動用PR動画制作」という現実的なプラン
「では、御社には何も頼めないということですか?」というオーナー様に対して、私たちが最終的にお出しした回答は次のようなものでした。
「動画のオーガニック運用を毎月継続して外注するのはリスクが高いためおすすめしませんが、弊社からご提案・ご提供できるサービスとして、TikTokとInstagramの初期設定と、初動用の高品質なPR動画を2〜3本制作するプランをご用意しています。制作した動画は各SNSの動画広告にもそのままご利用いただけますし、費用も総額25万円程度で完結します」
毎月40万円を払い続けるのではなく、最初の約25万円という明確な予算枠のなかで、集客に必要な武器だけを確実に揃えるというご提案です。このプランがなぜ小規模店舗にとって合理的なのか、具体的な中身を解説します。
TikTokとInstagramのアカウント初期設計とプロフィール構築
まず、お店を探しているお客様がアカウントを訪れた際に、迷わず予約や来店行動に移れるよう、TikTokとInstagramの初期設定をプロの視点で構築します。ビジネスアカウントへの切り替えや、検索されやすいプロフィール文の作成、予約サイトやGoogleマップとの連携設定など、集客の受け皿として取りこぼしがない状態を最初に整えます。
ここがしっかり設定されていれば、後からインフルエンサーに紹介されたり広告を回したりした際にも、アクセスしてきたユーザーを確実に予約へと誘導できるようになります。
お店の魅力を凝縮した高品質なPR動画を2〜3本制作するアプローチ
次に、何十本もの動画をダラダラと量産するのではなく、お店の看板メニューのシズル感、職人の調理風景、店内の魅力的な空間などを凝縮した「勝負できる高品質なPR用のショート動画」を最初に2〜3本だけ厳選して制作します。
プロのカメラマンとディレクターが現場に入り、照明や構図、音響まで徹底的にこだわって撮影した動画は、お店の公式アカウントのトップに「ピン留め(固定表示)」しておくことができます。アカウントを訪れたユーザーが最初に目にする場所に、圧倒的に美味しそうで魅力的な動画が2〜3本固定されていれば、それだけで「このお店は間違いなさそうだ」という強い来店動機を作ることができます。これなら、その後に毎日動画を更新し続けなくても、アカウントとしての説得力を十分に維持できます。
制作したショート動画を各SNSの動画広告として二次利用する手法
さらに、この最初に制作した2〜3本の高品質なPR動画は、そのままTikTok広告やInstagram広告(リール広告・ストーリーズ広告)のクリエイティブとして二次利用することができます。
実は、小規模店舗にとってオーガニック運用よりもはるかに再現性が高いのが、この「SNS動画広告」の活用です。通常の投稿(オーガニック)では、動画がどこの誰に表示されるかをコントロールすることはできません。しかし、SNS広告として配信すれば、「店舗から半径3キロ以内にいる人」「都内の特定の区に滞在している20代〜40代のグルメに関心がある人」というように、実際にお店に来店できる商圏内のターゲット層だけに絞って、確実に動画を届けることができます。
制作会社に毎月40万円の運用代行費を払うくらいであれば、最初に25万円程度でプロ品質のPR動画を2〜3本作り、あとは毎月3万円〜5万円程度の少額からでも、店舗周辺のユーザーに向けてSNS広告としてその動画を配信し続ける方が、はるかに低いコストで確実に来店客を増やすことができます。
25万円前後のご予算でリスクを抑えながら確実な来店動機を作るステップ
このご提案をお伝えしたところ、「これ何の時間ですか?」と驚かれていたオーナー様も、「なるほど!それなら毎月の固定費に圧迫されることもないし、うちの店舗規模でも無理なく始められて、集客のイメージがはっきり湧きます」と深く納得してくださいました。
初期設定と2〜3本のPR動画制作を25万円程度で完了させ、Instagramには普段の営業のなかで撮影した画像を少しずつ並べ、集客のブーストとしては制作した動画を使ったエリア限定のSNS広告や、グルメ系インフルエンサーへのスポット依頼を組み合わせていく。これが、1〜2店舗規模の飲食店やBtoC店舗が、大怪我をすることなく着実に売上を伸ばしていくための最も堅実なステップです。
もし現在、「お店のためにTikTokやInstagramを始めたいけれど、何から手をつければいいかわからない」「ショート動画の運用代行会社に見積もりを取ったら高額で迷っている」という店舗オーナー様がいらっしゃいましたら、まずは一度ご自身の店舗の客単価と店舗数から、本当にその投資が回収できるのかを計算してみてください。私たちはこれからも、ただ動画を作って納品するだけでなく、お客様の事業の数字と真剣に向き合い、本当に利益が残る選択肢をご提案し続けてまいります。





